May 05, 2010
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日本人との偽装結婚や親族を偽装する手口などで、大量のフィリピン人を密入国させたとして、兵庫県警が、入管難民法違反容疑でフィリピン人の女ブローカー(54)=同罪で有罪判決確定=を主犯格とする密入国斡旋(あっせん)グループを摘発した。約15年間で100人以上を密入国させ、報酬として1億円以上を荒稼ぎしていたとみられるが、多くの密入国を図りながら、長年にわたってなぜ発覚しなかったのか。強制退去を経験したフィリピン人に長期在留資格や永住権を取得させるため、偽装工作の限りを尽くしていた。
■親族装い次々と
「関西にフィリピン人の大物密航ブローカーが住んでいる」
昨年8月ごろ、この情報をつかんだ兵庫県警は、摘発するべく、ひそかに捜査を始めた。さまざまなネットワークから情報を集めると、ブローカーの存在は、在日フィリピン人の間ではかなり有名だったことが判明。入管当局と連携しながら女ブローカーを特定し、捜査開始から約1年後の今年7月に逮捕した。
県警は、長野、山梨両県警とも協力し、女ブローカーのほか、これまでに不法滞在していた仲間ら10人も逮捕。実態解明を進めると密入国斡旋グループの巧妙な手口が浮かび上がった。
グループはまず、フィリピン人の女を日本人の男とフィリピン国内で偽装結婚させたうえ、事前に入手した偽名パスポートを使って日本に密入国。さらに偽装結婚した女に「自分には連れ子がいる」「連れ子には夫もいる」などと嘘を言わせ、偽装親族を次々に日本に引き入れていた。
グループの手引きで密入国したのは過去にも日本で働き、不法滞在で強制退去となった経験を持つフィリピン人が大半。再び来日して働こうと思っても、強制退去から5年間は日本に入国できない。親族を偽装しさえすれば、日本で長期在留資格や永住権を得ることが簡単なため、日本で働くには実に都合が良かった。
大阪府門真市の女ブローカーの自宅など関係先から見つかった多くの結婚証明書や市民証明書などから、約15年間で100人以上を密入国させたとみられる実態が判明した。最近まで偽装家族が全国13都道府県に分かれて暮らしていたことが確認されたという。
■偽名パスポート
密入国で重要な役割を果たしたのが、偽名パスポートだ。女ブローカーはフィリピン居住の別の女ブローカーを通じ、現地の旅券事務所の職員から、名前以外は正規のパスポートと寸分違わない偽名パスポートを入手していた。
旅券事務所の職員は、れっきとしたフィリピンの国家公務員にもかかわらず、金銭を渡せば偽名パスポートを次々に作ってくれた。女ブローカーは調べに「フィリピンでは金さえあれば偽名パスポートでも何でも手に入る」と豪語していたという。
女ブローカーは密入国の報酬として1人当たり150万?300万円を受け取っていたが、前金は半額、残りを月割りで支払わせていた。支払いが滞ると無理やり帰国させて偽名パスポートを没収。没収後は別の密入国希望者に渡して使い回していた。
偽名パスポートは、顔写真も変更せずに使っていたが、フィリピンの入管職員にも金銭を渡していたため出国審査は簡単にすり抜けることができた。日本での入国審査の際も、査証(ビザ)なしの簡略な手続きで入国できる「再入国許可」を事前に得ることで、写真と顔の違いに気づかれることはなかった。
このほか、大阪府門真市内の女ブローカーの自宅マンションでは、偽装結婚を正規の結婚と見せかけるため、フィリピンの教会で結婚式を挙げたように偽装できる「教会偽装セット」を用意していた。女ブローカーの親族が牧師役を務め、“偽装結婚式”の様子を写真撮影。結婚の証明として日本の入管当局などに提出していたという。
■公金不正受給も?
女ブローカーには、居住していた大阪府門真市に虚偽の出生証明書を提出し、国民健康保険の出産育児一時金を不正受給したという疑惑も浮上している。
捜査関係者によると、女ブローカー自身で3人、長男の妻が2人、長女が3人の計8人をフィリピンで出産したとする虚偽の出生証明書を入手して一時金を申請。受給総額は約300万円にのぼるとみられる。
フィリピンの助産師に1人につき7万円を払えば、現地の市役所から虚偽の出生証明書を手に入れることができたという。女ブローカーは門真市役所に虚偽の出生証明書を提出すると、「フィリピンで子供を産んだが、子供は現地に置いてきた」などと説明。門真市からすぐに1人39万円の一時金が支給された。
県警は、女ブローカー自身の出産が架空だったことを確認するため、ICPO(国際刑事警察機構)を通じて現地の市役所に照会。一部について「出産した事実はない」との回答が寄せられ、出生証明書が虚偽だったことを裏付けた。ところが、身分登録制度が不完全なフィリピンでは、出生の事実がないことを立証するのは極めて困難との判断に至り、この件については逮捕後に起訴猶予となっている。
ただ、女ブローカー自身が3人を出産したとして、出生証明書を提出したのは50歳前後。高齢での連続出産という不自然さにもかかわらず、市側は事実の確認作業をしていなかったという。
門真市保険年金課は「外国人が母国で出産したとなると、出生証明書の内容が虚偽かどうか確認する手段がない。書類上の問題がなければそのまま支給せざるを得ない」と釈明する。
結局、女ブローカーは入管難民法違反(営利目的不法入国援助)の罪で起訴され、神戸地裁で10月、懲役2年、執行猶予4年の判決を受けた。11月初めに日本を強制退去となった。
大量のフィリピン人の密入国を手引きして、出産育児一時金という公金を食い物にした疑惑もある女ブローカー。マニラ近郊に密入国斡旋で築いた財産で購入した広大な敷地を持つ豪邸を持ち、旅行代理店や幼稚園、美容院の経営も手がける実業家の顔も持ち合わせていた。ところが強制退去後は豪邸を売り払ってアパートに移り住み、ひっそりと暮らしているという。美容院などの経営からも手を引いたことが確認され、まさに因果応報の状況だ。
ある捜査関係者は「豪邸の売却益のほか、隠し財産も持っているとみられるので、当分は生活に困らないだろう。ただ、金が尽きたら、また別の偽装工作でも考えて密入国の斡旋をやり始めるかもしれない」と警戒している。
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